予防と健康管理レポート
[アスベストと合併症について]
1、はじめに
今回、予防と健康管理の2回の講義でアスベストと、うつ病、ストレスの2本のビデオを見させていただいた。その中で私はアスベストの方により興味を惹かれたため、それに関連したキーワードを選択し、論文を調べていきたいと思う。
2、選んだキーワード
今回私が選んだ2つのキーワードは、「アスベスト」、「合併症」である。アスベストという言葉は最近ニュースや新聞などでよく見聞きするが、それがどのようなものなのか、人体にどのような影響を与えるのかといった事はあまり深く知ってはいない。そこで、アスベストについての知識をより深くするために、このキーワードを選択した。
3、選んだ論文の内容と概略
「アスベスト曝露による呼吸器障害 /井内 康揮」
アスベスト(石綿)とは、固有の鉱物名ではなく、蛇紋石族の6種類の鉱物の総称であり、現在はWHOなどの公的機関では、クリソタイル、アモサイト、クロシドライト、アンソフィライト、トレモライト、アクチノライトの6種類に限って使われる名称である。
このアスベストが産業界で広く使われている理由は木綿や羊毛と同様にしなやかで糸や布に織れる、引っ張りに強い、摩擦、磨耗に強い、高熱に耐える、熱や音を遮断する、薬品に強い、電気を通しにくい、細菌、湿気に強い、表面積が広く、ほかの物質との密着性に優れる、安価であるといった優れた性質を持つからである。
一方、ヒトに対するアスベストの危険性については、1927年にはすでに塵肺の一型であるアスベスト肺がイギリスで報告されている。また、その発がん性については1972年、WHOがそれを認め、使用制限から使用禁止への方向が示された。日本では、1995年、すべてのアスベスト及びアスベスト製品の使用禁止を定めた。さらに、代替品がなく、使用されているアスベストも2008年までに全面禁止にする方針を定めている。
アスベストは経気道的に肺内に吸引される。末梢肺胞に達した場合はアスベスト繊維に対して肺胞マクロファージによる貪食が起こるが、アスベストは鉱物繊維であるため、消化は不可能であり、逆にマクロファージは自潰しアスベスト小体を形成する。また、細くて長いアスベスト繊維は、間質に達し間質繊維化を促す。
塵肺症としてのアスベスト肺は、アスベストに曝される職場環境での労働者に認められ、年々増加している。また、女性患者が多いのも特徴である。これは、アスベストの紡織業において女性労働者が多いことによると思われる。
アスベスト肺以外の非腫瘍性疾患は、胸膜プラーク、良性石綿胸水、びまん性胸膜肥厚、円形無気肺が挙げられる。このうち胸膜プラークは、壁側胸膜のみに起こる病変で、プラーク形成までに10年以上の年月が必要になるが、一般住民を含む低濃度曝露者にもみられることから、アスベストへの曝露の指標となる
良性石綿胸水とは、‘アスベストへの曝露があり他に原因が無い人に見られる胸水であり、確認後約3年以内に悪性腫瘍を認めない’ことが定義である。この胸水は、それが消失した後に約50%の例でびまん性胸膜肥厚を残すとされている。
びまん性胸膜肥厚とは、臓側胸膜の病変であり、壁側胸膜における限局性の胸膜プラークとは区別される。しかし壁側胸膜との癒着を伴い、肺実質の繊維化や局所性無気肺を伴うこともある。
円形無気肺とは、胸膜肥厚部に隣接した末梢肺が腫瘍に類似した円形陰影を示すことを指す。ただし、この所見はアスベスト曝露に特異的とはいえない。
中皮腫とは、胸膜、腹膜、心膜、精巣鞘膜という4つの体腔を被曝する將膜の中皮細胞から生じる悪性腫瘍である。従来、この腫瘍の頻度は低いものであったが、アスベスト鉱山の労働者、その家族および付近の住民に集中的に発生したという報告から、アスベストとの関連が明らかになった。日本においても近年、その発生の増加が著しい。
中皮腫は致命率の極めて高い悪性腫瘍であり男性に多い。一方、今後の中皮腫の発生数については、アスベスト使用量200トンにつき1例の中皮腫がその20〜30年後に発生するというデータがあり、これに基づくと、単純計算であるが51000人の中皮腫の発生があることが予測される。
アスベスト曝露開始から中皮腫発生までの潜伏期間については、胸膜側は平均36.9年、腹膜側は平均41.1年、両者の平均38年とされている。これらのデータから中皮腫は、30〜40年の長い潜伏期間をもつ腫瘍と考えるのが妥当である。
中皮腫の発生部位の分布は、胸膜77.4%、腹膜13.1%、心膜2.9%、精巣鞘膜0.6%と、胸膜が圧倒的に多い。また、中皮腫の多くはびまん型を示し、限局型はごく少ない。
組織学的には、上皮性悪性腫瘍の様な所見を示す上皮型、紡錘形あるいは多形性肉腫のような所見を示す肉腫型、前二者の所見の混在を示す二相型があり、それらが占める割合はおよそ60%、20%、20%である。また、これら以外にも軟骨肉腫、リンパ組織球様細胞からなる例など様々な例が存在し、適切な病理診断は難しい。また、胸膜における中皮腫の鑑別診断において鑑別に苦慮する例として上皮型中皮腫と原発性および転移性肺腺癌、上皮性中皮腫と反応性中皮細胞増生、肉腫型中皮腫と肉腫、繊維形成型中皮腫と繊維性胸膜炎が挙げられる。
前述した塵肺症としてのアスベスト肺に肺がんが合併することはよく知られた事実であり、アスベスト曝露と肺がん発生の因果関係は証明されている。従来は、アスベストによる繊維化に伴って生じるという考え方が有力であったが、明らかアスベスト肺を示さない場合でもアスベスト曝露者では、肺がんの発生リスクは高いことから、アスベスト繊維自体が重要であるという考え方に変化している。
一般に肺がんの原因は喫煙とされてきたが、組織学的に肺にアスベスト小体が認められること、溶解法で肺組織にアスベスト繊維が見出せることなどを指標とすると、約10%の肺がんはアスベスト曝露に関連した肺がんであることがわかる。
アスベスト肺に合併する肺がんの特徴としては、下葉に多く、末梢型が多いとされているが、近年の報告では発生部位に特徴は無いとする傾向にある。また、組織型については、アスベスト肺の程度が強くなると腺癌の割合が増えるとする報告や、小細胞癌の割合が増えるといった報告もあるがこれもまた特徴が無いとする考えが有力である。
アスベスト繊維の沈着量、繊維の長さ、種類を各病変ごとに比較すると、沈着量では、非肺がん、肺がん例、中皮腫の順に多く、長さでは、非肺がん例が4μm以下の繊維が多く、肺がん例では8μm以上の繊維が多く、中皮腫はその中間の値をとる。種類については、肺がん例、非肺がん例ではアモサイトの割合が大きく、中皮腫例ではクロシドライトの割合が大きい。しかし、アスベスト繊維が中皮腫細胞の存在する將膜に達する機序や、なぜ中皮細胞が標的細胞であるかなどについては明確に説明できる事実が少なく、今後の検討が必要である。
「悪性中皮腫の治療方針 /塚田裕子 横山晶」
悪性中皮腫は、アスベスト曝露が主な原因とされる胸膜中皮細胞由来の予後不良の悪性腫瘍である。世界的に増加傾向がみられており、日本でもアスベストの消費量の推移から見て今後増加するものと予測される。早期発見されることはまれで、確定診断にはさまざまな検査の組み合わせが必要である。手術、放射線治療、化学療法いずれも単独では局所制御効果、ともにほとんど無く、標準的治療は確立していない。
悪性中皮腫はまれな疾患であるため、また、病期分類が確立しておらず、試験ごとに患者の予後が異なるために、無作為比較試験がほとんど行われず、臨床試験間の成績の比較も困難であった。しかし近年、予後因子評価法の確立などにより適切な評価が可能になりつつある。
各種抗がん剤の単独での効果については、再現性をもって20%の奏効率を示す薬剤は現時点では存在しない。よって多剤併用法が検討された。その中で、CDDPとゲムシタビンの併用療法、CDDPと塩酸イリノテカンの併用療法について比較的良好な成績が報告された。また、近年注目されているのはラルチトレキセドとぺメトレキセドである。
本症では病期分類が確立されていないこともあり、予後因子も重視されている。予後の異なる群に層別することは、個々の患者の予後推定のみならず新治療についての臨床試験との比較、無作為比較試験における均質な患者の割付という面でも重要である。放射線治療法の奏効率は数%と報告されており、主たる治療法とはなりにくい。
これらのことから現時点での最善の方法としては、早期の症例を対象に複数の治療法を併用する集学的治療が最も有効だと考えられる。また現在では研究途上であるが、免疫療法、遺伝子療法などが期待されている。
4、考察
今回の論文でアスベストやその合併症について調べて、今後確実に増加が考えられるにもかかわらず、中皮腫に代表される合併症についてまだ解明されていないことが多いと感じ、それらをいち早く解明することが重要であるとも感じた。またアスベストの問題は、テレビやニュースで話題になっているように医療機関だけの問題ではなく環境省、建設省といったさまざまな機関におよんでいる。よってこれらの機関が同様の危機意識を持ち連携して問題解決に取り組んでいくことが必要である。また、労働者だけではなく一般生活環境に住んでいる人でさえもアスベストによる被害を受けていることも忘れてはいけない点である。これらのたくさんの問題がすべて解決したとき本当にアスベスト曝露に対する治療が確立したといえるのではないだろうか。
5、まとめ
このように、一つの症状に対して集中的に調べたことはあまり無く、大変勉強になった。今回のアスベストの件で言えば、この問題は治療さえし手いればよいのではなく、責任問題、法律の問題など一つの病気には様々な問題が同時に存在していることがよく分かり多方面から患者を助ける必要があるということを強く感じた。